「生卵を飲むと肌がきれいになる」
昔からの美容法として、あるいはSNSや口コミで、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
この記事では、元エステティシャンとして数千人の肌を見てきた立場から、「生卵を飲む美容法」に意味があるのかを、研究データをもとに冷静に検証します。
結論|美肌目的で生卵を飲む必要はない
結論からお伝えしますね。
生卵を飲むだけで美肌になるという明確な科学的根拠はありません。
- 卵そのものは栄養価の高い食品です
- ただし、生だから美容に良くなるわけではありません
- タンパク質は、加熱した卵のほうが消化吸収されやすいとする研究があります
- 生卵白に含まれるアビジンはビオチンと結合しますが、加熱すると変性します
つまり、美容のためにわざわざ生卵を飲む必要はなく、普段の食事で加熱した卵を食べれば十分、というのが私の答えです。ここから、その理由を順番に見ていきましょう。
なぜ「生卵を飲むと美肌になる」と言われるの?
卵には、タンパク質をはじめ、ビタミンやミネラルなど肌の健康維持に関係する栄養素が含まれています。
この「卵は栄養がある」という事実に加えて、
- 「火を通さないほうが栄養が壊れなさそう」というイメージ
- 割ってそのまま飲めるという手軽さ
といったイメージも、「生卵を飲む=美肌」と言われる背景の一つと考えられます。
ただ、「栄養がある食品」と「生で飲むと美肌になる」の間には、かなり距離があるんです。卵にどんな栄養素が含まれ、1日にどれくらいが目安なのかは、別の記事で詳しくまとめています。
エステの現場で数千人の肌を見てきましたが、肌の状態は食事だけでなく、皮脂量・乾燥・摩擦・紫外線・ホルモンバランスなど、いくつもの要因が重なって決まります。「○○を食べれば美肌」という単純な美容法には、正直なところ慎重になったほうがいいと思っています。
生卵より加熱した卵をすすめる理由
ここがこの記事の核心です。「生のほうが栄養をそのまま摂れる」と思われがちですが、卵に関しては逆の面があります。
タンパク質は加熱したほうが消化しやすい
卵のタンパク質は、加熱によって立体構造がほどける(熱変性する)ことで、消化酵素が働きやすくなります。また、生の卵白には消化酵素の働きを妨げる成分も含まれています。
ベルギーの研究チームが安定同位体を使って調べた研究では、小腸で消化吸収された卵タンパク質の割合は、加熱した卵で約91%、生卵で約51%と報告されています(Evenepoel et al., The Journal of Nutrition, 1998)。
なお、この研究は回腸瘻を有する5名を対象とした小規模研究で、比較しているのは「加熱した卵」と「生卵」です。半熟や温泉卵など、加熱の程度ごとの数値を示したものではない点は、正確にお伝えしておきますね。それでも、加熱した卵のほうが消化吸収されやすいという方向性ははっきりしています。
生卵白のアビジンとビオチン
ビオチンは、皮膚や粘膜の健康維持を助けるビタミンB群の一種で、卵黄に多く含まれています。
一方、生の卵白には「アビジン」というタンパク質が含まれています。アビジンはビオチンと非常に強く結びつく性質があり、結合したビオチンは吸収されにくくなります。
アビジンは加熱によって変性し、ビオチンと結合する働きを失います。そのため、生卵白をとる場合は、加熱した卵に比べてビオチンを利用しにくくなる可能性があります。
とはいえ、ときどき卵かけごはんを食べる程度でビオチン不足を心配する必要はありません。問題になりやすいのは、大量の生卵白を長期間とり続けるような極端な食べ方です。
生食には食中毒リスクがある
日本では、殻付き卵の賞味期限は、冷蔵保存を前提に生で食べられる期限の目安として表示されています。ただし、サルモネラ属菌による食中毒のリスクはゼロではありません。
サルモネラ属菌は十分な加熱で死滅するため、加熱調理はそれだけで安全性を高める方法でもあります。美容目的で、わざわざこのリスクを取る理由は見当たりません。
生卵と加熱した卵の比較
| 比較ポイント | 生卵 | 加熱した卵 |
|---|---|---|
| タンパク質の消化吸収 | されにくい | されやすい |
| ビオチンの利用 | アビジンがビオチンと結合する | アビジンが加熱で変性する |
| 食中毒リスク | わずかにある | 十分な加熱で大きく下がる |
| 美容目的での合理性 | わざわざ選ぶ理由は少ない | 日常の食事で取り入れやすい |
それでも生卵を食べるなら注意したいこと
卵かけごはんやすき焼きなど、生卵そのものを楽しむのは食文化として素敵なことです。美容のためではなく、おいしく食べるために生で食べる場合は、次の点を意識してみてください。
- 賞味期限:殻付き卵の賞味期限は、冷蔵保存を前提とした「生で食べられる期限」の目安です。期限を過ぎた卵は生で食べず、しっかり加熱して使いましょう。
- 保存:購入後は冷蔵庫で保存します。賞味期限内でも、保存状態が悪かった卵の生食は避けましょう。ひびの入った卵は生で食べず、早めに加熱料理に回してください。
- 衛生管理:割ったら早めに食べ、作り置きはしないこと。殻に触れた手や器具は洗いましょう。
- 体調:胃腸の調子が悪いときや体調がすぐれないときは、生食は避けたほうが安心です。
- 注意が必要な方:高齢の方、小さなお子さん、妊娠中の方、免疫機能が低下している方は、加熱した卵を優先してください。持病や治療中の方は、医師にも確認してみてください。
美肌を目指すなら「生卵を飲む」より普通に卵を食べよう
ここまでをひと言でまとめると、「生卵を飲むより、温泉卵を」ということですね。
もちろん、温泉卵だけが正解というわけではありません。ゆで卵、目玉焼き、卵焼き、スープに落とした卵など、普段の食事で無理なく続けられる形で取り入れれば十分です。
ひとつの食材だけで美肌になれるのなら、きっとみんな美肌になっているはずですよね。特別な美容法を増やすより、バランスの取れた食事を淡々と続けるほうが、肌にとってはずっと現実的です。これは、このブログでお伝えしている「引き算の美容」の考え方そのものでもあります。
乾燥が気になる方は、セラミドを補える食品もあわせて意識してみてください。
「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」も肌の土台づくりに関わります。食べる時間から整える方法は、こちらでまとめています。
よくある質問
Q. 生卵を毎日飲めば肌はきれいになりますか?
A. 生卵を毎日飲むことで肌がきれいになる、という明確な根拠はありません。卵の栄養を摂るなら、加熱した卵のほうが消化吸収の面でも安全面でも合理的です。
Q. 生卵とゆで卵では、どちらが美容にいいですか?
A. 栄養の利用しやすさで比べるなら、ゆで卵などの加熱した卵です。タンパク質が消化吸収されやすいとする研究があり、ビオチンと結合する生卵白のアビジンも加熱で変性します。
Q. 生卵は肌荒れにいいですか?
A. 生卵が肌荒れに良いという根拠は確認されていません。肌荒れには、乾燥・摩擦・睡眠・ホルモンなど複数の要因が関わります。続く場合は食事だけで何とかしようとせず、皮膚科に相談してみてください。
Q. 卵は1日何個まで食べていいですか?
A. 1日の目安や食べ方は、こちらの記事で詳しくまとめています。
参考文献:Evenepoel P, et al. Digestibility of cooked and raw egg protein in humans as assessed by stable isotope techniques. J Nutr. 1998;128(10):1716-1722.(PubMed)



